介護にまつわる法改正のひとつとして注目を浴びたのが、平成29年度の「介護福祉士外国人在留資格の創設」でしょう。
厚労省による外国人雇用状況の届け出状況によると、2008年に約48万人であった外国人労働者は、2017年には127万人にまで増えています。
このことから、介護業界が外国人の労働者を必要としなければならない状況にあることがわかるでしょう。それほど人材の需要が高い介護業界では、単発や短期の派遣という働き方もあります。ここでは、その特徴やメリット・デメリットについて紹介していきます。
介護派遣の単発・短期の仕事とは?
介護派遣の仕事
介護派遣は、正社員やパートとして直接雇われるのではなく、派遣会社を通して事業所に労働力を提供します。
派遣にも登録型派遣や常用型派遣などいくつかの種類がありますが、単発や短期の派遣はこのうち登録型派遣にカテゴライズできるでしょう。
登録型派遣は、派遣会社に登録しておくことで仕事の紹介を受けます。その頻度や時期はさまざまですが、単発や短期だからこそ自由なシフトで働くことが可能です。
【施設】ヘルパー・介護士
施設系サービスとしては、特別養護老人ホームやデイサービスなどが挙げられます。このような施設では、常に介護スタッフが利用者と関わる必要があり、しばしば人材不足になりがちです。
たとえば、負荷の大きい入浴介護などに人員を割かれることで、ホールの見守りができなくなることもあるでしょう。介護の仕事では、時に瞬間的なタイムラグが命取りになるケースもあります。
スタッフが少し目を離したすきに、利用者が転倒したなどということも少なくありません。施設における介護スタッフの需要は高いといえるでしょう。
【在宅】ヘルパー・介護士
利用者の自宅に直接訪問して、家事や入浴などの介助をするという働き方もあります。
ある程度の状態まではデイサービスなどの施設に通う事もできますが、身体が弱ってしまえば施設への通いが困難になるケースも少なくありません。
そのような状態でも、特別養護老人ホームのような施設への入所条件を満たせないということもあります。そのような利用者に対して、自宅にいながらでも介護のサービスを受けられるというのが在宅介護です。
在宅介護は、自分の人生を病院ではなく家で過ごしたいと考えている利用者が多いことからも、需要の増加が見込めるサービス形態です。
単発・短期の時給相場
単発・短期は正社員よりも高い
介護派遣の単発・短期の時給相場は、正社員やアルバイトなどの直接雇用に比べるといくらか高い傾向にあります。しかし、その相場は働き方や事業所、その地域によってもさまざまであり、一概に決めつけられるものでもありません。
それでも、自分である程度介護業界の事情を知っておくことで、時給単価を高くすることはできるでしょう。そこで、ひとつ確認しておきたいことが、サービスの状況です。
時給は施設によりさまざま
平成30年度の介護報酬改定によって、増収となった事業所で多いのが特別養護老人ホームです。全国の特別養護老人ホームにおいて、約3割もの事業所が増収となっています。
施設 | 平均時給単価 |
特別養護老人ホーム | 1100~1500円 |
デイサービス | 900~1100円 |
訪問介護 | 1000~1700円 |
訪問介護はサービスの単価が他のサービスと比べて高いです。総じて、介護派遣における単発・短期の時給相場はおおよそ1000円前後と考えるのが妥当でしょう。
介護派遣の単発・短期のメリット
【メリット1】シフトが自由に組める
ワークライフバランスという言葉が広まっていますが、介護派遣の単発・短期という働き方はシフトを自由に組むことが可能であり、適切なワークライフバランスをとることができるでしょう。
正社員などであれば、煩雑な書類作成やサービス残業もやむを得ないといった状況になることも少なくありません。業務時間外の担当者会議などもあり、どうしてもプライベートな生活を圧迫する場面もあるでしょう。
しかし、介護派遣であれば、無理な残業もないことに加え、自分の都合に合わせて休むことも可能です。事業所側からしても、必要な時に必要なだけ来てもらえればいいという考えもあるため、休むことに対するプレッシャーを感じる必要もありません。
【メリット2】さまざまな事業所で経験を積める
単発・短期の派遣介護であれば、ひとつの事業所だけに長く関わるというケースは少ないでしょう。さまざまな介護施設や事業所を経験することで、多様な働き方を経験できるというのは介護派遣の魅力のひとつといえます。
介護といっても、その事業所内でしか通用しないという仕事もいくつかあります。共通の介護技術はありますが、その周辺の雑務などは、事業所独自のノウハウで遂行していることもあるでしょう。
さまざまな事業所を経験できる派遣だからこそ、応用力のあるスキルが身につきます。
【メリット3】単価が高い
介護派遣の場合、正社員やアルバイトなどと比べると時給単価が高い傾向にあります。これは、正社員やアルバイトにかかる社会保険や福利厚生などのコストがかからないということが理由のひとつです。
基本的に、事業所が人を雇う場合、雇用する労働者に対していくつかの保険に加入させることは義務付けられています。
健康保険や厚生年金なども、折半することが法律で決められていることもあるため、直接雇用はコストがかかります。それに引きかえ、介護派遣はコストがかからないため、その分労働者の手取りが増えるという仕組みになっています。
【メリット4】副業的に働ける
正社員としてひとつの事業所に勤めている場合、それ以外の仕事にも取り組むとなると週1日程度を副業にあてることになるでしょう。
しかし、週1日からのアルバイトは、なかなか求人が見つからないものです。アルバイトであれば、たいていが週2~3日以上になります。
その点、介護派遣であれば、週1日からでも派遣先が見つかります。政府のモデル就業規則改定など、副業解禁の流れがありますが、介護派遣は副業的な働き方として注目すべきでしょう。
【メリット5】人間関係に縛られない
ひとつの職場で働き続けるのであれば、できるだけ働きやすい環境であることが望ましいです。その環境の質を左右するものに、人間関係があります。人間関係は、少しこじらせてしまうとかなり働きにくくなります。
人間関係によるストレスで、仕事が嫌になってしまうことも少なくありません。介護派遣であれば、職場の人間関係に深く関わることはないため、そこに対してのストレスが少なくて済むでしょう。
どうしても環境が合わなければ、すぐ撤退することもできます。人間関係にしばられずに働くことができるのは、介護派遣の強みといえます。
介護派遣の単発・短期のデメリット
【デメリット1】収入は安定しない
介護派遣の収入は、基本的に歩合制をとっています。働けば働くだけ収入が上がるということも期待できますが、逆にいえば、仕事がなければまったく収入がないです。
正社員であれば、自分の可動している時間以外にも収益が発生しており、ある一定のラインであれば自分の収入も保証されています。有給休暇などがいい例でしょう。
介護派遣の場合は、自分の努力が反映されやすいですが、その分リスクも背負っています。
【デメリット2】雇用先が定まらない
単発・短期の介護派遣では、ひとつの事業所に長くとどまるということは少ないでしょう。雇用先が定まらないため、いつになっても安定した働き方ができないと感じる人もいるかもしれません。
安定志向の労働者にとっては、雇用先が定まらないという要素はデメリットといえます。
【デメリット3】一定のスキルが身につきにくい
介護のスキルは、継続すればするほど上達するものです。歩行介助や移乗介助など、人の身体を支えるということは、現場でしかわからない独特のノウハウがあります。
それを体感して見につけるには、一定期間を継続して経験していくという過程が欠かせません。スキルが十分身につく前にあっさり派遣先が変わるということを繰り返していては、なかなか専門的なスキルは習得しにくいでしょう。
【デメリット4】社会保険や福利厚生などが受けられない
東京都における健康保険の保険料率は9.9%、厚生年金保険の保険料率は18.3%となっています。保険料は、1カ月の給料から計算される仕組みです。
仮に、給料が20万円とすれば、その場合の健康保険料は約2万円、厚生年金保険料は約3万6000円となり、かなり高額になります。
厚生年金保険は社員のみの保険で、単発の派遣であれば払うことはありませんが、健康保険については全額払うことになるでしょう。これを社員になって折半してもらえば、年間で12万円ほど得したことになります。
この他にも、退職金や会社独自の福利厚生サービスを受けることができないなども、デメリットといえるでしょう。
介護派遣の単発・短期に向いている人
副収入を稼ぎたい人
正社員で週5日働いている人でも、派遣会社に登録さえしておけば自分のスケジュールに合う派遣先を紹介してもらえるでしょう。
正社員であれば、健康保険や厚生年金保険などの社会保険を折半してもらえるという介護派遣のデメリットをカバーできます。派遣での仕事を増やせば、正社員での収入をベースにしてさらに稼ぐこともできるでしょう。
このような理由からも、正社員と介護派遣という組み合わせは有効な手段です。社員として働く以外にも収入源を作りたい人は、介護派遣に向いています。
適応力のある人
介護派遣でさまざまな事業所で働くためには、それなりの現場対応力が求められます。まったくの未経験であれば、派遣ではなくて正社員として働くほうが望ましいかもしれません。
これは、派遣スタッフを育てるというのは事業所からすればコストにしかならないからです。社員であれば、将来性を見込んでコストをかけてでも育成しますが、派遣はそうでないケースもあるのです。
そのため、派遣として働くのであれば、自分自身で環境に適応していく必要があります。さまざまな環境でスタッフとして馴染める適応力のある人は、介護派遣に挑戦してみるのもよいでしょう。
好奇心のある人
どの事業所にいっても、それぞれ独自のサービスや考え方、利用者の違いなどがあります。そのような違いを、好奇心を持って学びに変えることができる人であれば、介護派遣という働き方を選んでもよいかもしれません。
自分から、それぞれの派遣先に興味を持って接していくことで、自然と学びが得られ、知識と経験を積むことができます。さまざまな事業所の文化に触れ、柔軟な思考をもってオールラウンダーとしての派遣スタッフを目指すことができるでしょう。
介護派遣の単発・短期に向いていない人
安定収入がない人
単発・短期の介護派遣では、継続して安定した収入を得ることは難しいでしょう。社会保険や厚生年金保険などの問題から、退職金やボーナスがないなどのデメリットもあります。
安定した生活を目指したい人であれば、派遣という働き方でも比較的収入が安定している常用型派遣か、正社員登用を前提とした紹介予定派遣などがよいでしょう。単発・短期の介護派遣は、安定した収入がない人にとっては不向きといえます。
変化が苦手な人
介護業界で働くうえで重要なのが、利用者との信頼関係です。利用者は、介護スタッフに大切な自分の身体を委ねることになります。
大切な身体を、信用できない人には預けたくないと思うのは当然のことといえるでしょう。状況が変化しても、利用者に対して信頼感を与えられるような対応力のある人であれば介護派遣として十分働けます。
しかし、状況の変化に対応できない人には、単発・短期の介護派遣という働き方は向いていないかもしれません。
ひとつの事業所でキャリアアップしたい人
介護業界でのステップアップの流れとして、介護スタッフ→ケアマネージャー・施設相談員→施設管理者・その他マネジメント職といったモデルがあります。
最初は現場で直接介護サービスを提供し、業界の状況を学びます。そこから、介護のサービスをマネジメントする立場になるでしょう。
さらに、施設管理者として経営に関する役職に就くこともあります。正社員であれば、このようなキャリアを順当に進めていける可能性がありますが、単発・短期の派遣ではこのようなキャリアアップは難しいかもしれません。
ひとつの事業所でキャリア形成していきたい人は、正社員を目指しましょう。
おわりに
介護派遣には登録型や常用型などさまざまな種類がありますが、登録型であれば単発・短期で柔軟な働き方ができます。効率のよい副業としても、介護派遣は有効な手段です。
自分のセカンドプレイスとして介護派遣を始めて、充実したワークライフバランスを実現しましょう。