危うい高齢者の運転免許は剥奪すべき?強制返納の義務化は必要なのか?

高齢者の免許剥奪・強制返納自動車

高齢ドライバーが加害者となる悲惨な死亡交通事故が、全国的に増加傾向にあります。

逆走や接触など一歩間違えば大事故につながる事案も多数報告されているため、高齢者の免許は強制返納させるべき、という意見もよく聞かれますが、自主返納に応じない高齢者に対する免許の剥奪は可能なのでしょうか?

高齢ドライバーの免許返納の義務化について、道路交通法の施行状況などからも考えてみたいと思います。

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なぜ高齢者の免許は剥奪できないのか?

人権の問題

現在、高齢ドライバーに対する免許の停止や取り消しは、認知機能検査で認知症の怖れがあると判断されたのち臨時適性検査や医師の診断を経て決定される場合や、重大な事故や違反を犯した場合などに行われます。

運転に影響があると考えられる疾患については、ほかの年代のドライバーでも免許の再交付が禁止されますが、人権や個人情報の問題などから自己申請が原則となっていて、免許剥奪などの強制力はありません。

同様に高齢者から免許を剥奪することは、高齢者の権利や自由を考えると、難しいといえるでしょう。

個々の状況の違い

高齢者といってもそれぞれで運動能力にも差があり、生活状況も異なっています。

身体機能の衰えが少なく運転に問題のない高齢者もいますし、都市部の交通量の多いところを日常的に運転するドライバーもいれば、地方で農作業の際に近距離を運転するだけという人もいて、年齢のみで区切って高齢者の免許を剥奪をするというのは無理があると考えられます。

また地方によっては代替の移動手段が全く無いなど、免許を剥奪するなら先に対応しなければならない点が多く、難しい現状です。

高齢者に不利な政策は取れない

選挙の投票権を持つ年齢が18歳に引き下げられましたが、若い年代の選挙に対する関心は低く、近年の選挙での投票率の低さからみても、高齢の有権者からの支持が政権の維持に大きくかかわっているのが現状です。

高齢者に対する厳しい施策はその支持を失う恐れもあり、国としてはそのような政策をとれないのだ、という見方もあります。

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現在の「改正道路交通法」施行状況

2017年3月12日に改正道路交通法が施行され、高齢者による交通事故の防止策として認知症対策が強化され、75歳以上の人に対して免許更新時や一定の交通違反を犯した際には認知機能検査を受けることが義務付けられました。

認知機能検査を受け、免許の取消し等を受けた者

2017年3月12日から2018年3月31日の期間で認知機能検査受検者数は、更新と臨時を併せて210万5477人で、2016年度の166万2512人に比べ44万人以上の増加となっています。

認知機能検査受検者数の比較20162017

この検査の結果により受検者は

  • 第1分類「認知症のおそれがある者」
  • 第2分類「認知機能が低下しているおそれがある者」
  • 第3分類「認知機能が低下しているおそれがない者」

に分けられます。

認知機能検査を受け、免許の取消し等を受けた者

 

この検査で第1分類「認知症のおそれがある者」は210万5477人から5万7099人、このうち免許を自主返納 → 2552人、再受検 → 5339人、免許失効 → 942人となっています。

認知症のおそれがある者20172018

 

「臨時適性検査(専門医の診断)の通知や診断書の提出命令を受けた者」が4万1486人に分類され、このうち自主返納は13563人、再受験はs3046人、免許失効は3575人、これ以外に医師の診断待ちが4832人になっています。

臨時適性検査の通知20172018

 

「医師の診断を受けた者」が1万6470人に分類されました。このうち免許継続が1万3063人、6ヶ月後の診断書提出が9563人、条件なしの継続が3500人、これ以外に行政処分に向けた手続き中は1515人となっています。

医師の診断を受けた20172018

 

最終的に「免許の取消し・停止」となった方は1,892人(取消し1836人、停止は56人)で、前年度中の597人と比べると多くなっていますが、受検者数全体から見るとかなり少ない人数です。

免許の取消し・停止20172018

認知機能検査の実施結果等

実施結果の内訳を見てみると、更新時認知機能検査の受検者197万4903人のうち、70%以上の140万789人が問題が無い第3分類、第2分類は約30%弱、機能低下が疑われる第1分類も5万4000人余り見られます。

更新時認知機能検査20172018

また、違反などを端緒にした臨時認知機能検査の受検者のうち、70%強が第3分類、約25%が第2分類、2.4%が第1分類となっています。

臨時認知機能検査20172018

医師の診断を受けた者に対する措置結果については、更新時認知機能検査の措置件数は1万5424件で約20%が条件なしの免許継続となりましたが、約58%に対して原則6か月後の診断書の提出が求められ、11%以上の1753件に対し免許取り消しや停止の措置が取られています。

更新時認知機能検査(医師の診断後)20172018

臨時の認知機能検査の措置件数でも、ほぼ同じような割合で、1046件のうち13.3%の139件に対して取り消しや停止の措置が行われています。

臨時認知機能検査(医師の診断後)20172018

医師の診断体制の確保

認知症の診断について、都道府県公安委員会が特に認めた指定医の数は、2017年2月末からほぼ横ばいになっていますが、指定医以外で診断の対象者について警察からの照会を了承した医師の数は、ひと月ごとに大きく伸びていて、2018年2月末では診断した総数6037件のうち4769件が指定医以外となっています。

医師の診断体制の確保20172018

これは2017年2月末の2192件の倍以上で、認知症診断の必要性が広く知られてきた結果といえるでしょう。

高齢者講習の実施状況

改正道路交通法の新制度下での高齢化講習には、実車指導をドライブレコーダーで記録し、その映像を用いた個人指導を行う高度化講習と、個人指導の無い合理化講習があります。

 70歳以上
75歳未満
75歳以上合計
第1分類第2分類第3分類
合理化講習
(2時間)
高度化講習
(3時間)
合理化講習
(2時間)
2018年
高齢者講習
(新制度)
666,67510,357318,826895,4531,224,636
2017年
高齢者講習
(旧制度)
376,05317,028181,120445,950644,098
2016年
高齢者講習
954,18648,450464,5521,066,2291,579,231

70才以上75才未満に対する2時間の合理化講習受講者が66万6765人、75才以上の第1、第2分類の者に対する3時間の高度化講習のうち、第1分類の受講者は1万357人、第2分類は31万8826人、75才以上で認知機能に問題のない第3分類の者に行われる合理化講習は89万5453人が受講しました。

臨時高齢者講習の実施状況

75歳以上合計
第1分類第2分類第3分類
45010,01710,467

また臨時高齢者講習の受講者1万467人中、1万17人が第2分類、450名が認知症のおそれのある第1分類とされて合計1万467人の方に実施されました。

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「高齢者の免許返納」義務化は必要か?

高齢者の運転免許返納の義務化については署名運動なども起こっていて、若い人ばかりではなく免許返納の当事者である高齢者にも、その必要性を感じている人は多いようです。

しかし、返納した方がいい、するべき、と思っても今すぐ返納できない、させられない理由もあり、義務化を進めるには、多くの課題があります。

一部の高齢者への義務化

高齢者の免許更新期間を短縮したり認知症検査を厳格にするなど、更新や検査の仕組みを変えて、一部の高齢者に対し免許返納を義務化するべきという考え方もあります。

年齢ですべて制限するよりも合理的な考え方ですが、それには法整備や検査方法の確立なども早急に必要になります。

交通手段の確保が必要

義務化を国が進めるなら、返納する地方の住民に対して代わりの交通手段を整える必要があります。

地域によっては電車が廃線となっていたり、バスも1日に数本しかない場所もあるため、買い物弱者の大量発生や、通院手段が無くなることによる健康上の問題も懸念されます。

そのような問題が起こりうるすべての地域に対して、有効な交通手段を準備するには、予算も時間もかかるでしょう。

「高齢者の免許返納」義務化されるとどうなる?

免許返納の義務化に賛成する根拠、また義務化することによって考えられる問題点についてはさまざまな意見があります。

「免許返納」賛成意見

悲惨な事故が減る
高齢人口が増えていることで、必然的に高齢者が関わる事故も増えているのですから、運転する高齢者を減らせば事故も減るのでは、という意見です。
認知機能等に問題が無くても、ハンドルやブレーキ操作に必要な手足の動きや、後方確認に必要な首やからだの動きなど、身体機能が年齢とともに落ちるのは当然なので、18才以下の免許取得が制限されているように、高齢になったことを理由に免許の所持を制限しても差別には当たらないのではないか、と言われています。
返納することでメリットがある
交通インフラが整備されていて代替の移動手段が確保できる都市部では、高齢者の生活にクルマの有無はそれほど影響しないので、返納義務化も問題ないと考えられるうえ、運転免許の自主返納者に対して交通費等の補助や提携施設利用での優遇など、メリットを用意している自治体も多くあります。
また、高齢者個人にとっても、クルマの維持費を減らすことにより、その分を老後の生活費に充てることができたり、自宅の駐車スペースを貸し出すことにより収入を得ているという例も見られます。

「免許返納」反対意見

高齢者の生活の質を低下させる
クルマを使って好きな時に自分の意志で外出することができていた高齢者にとって、免許を返納すると行動範囲が狭まることが懸念されています。
自主的な活動量や社会参加の機会が減少することにより、認知機能の衰えや抑うつ状態になりやすくなり健康状態に影響する、として高齢者の生活の質を下げる免許返納に反対する意見もあります。
移動手段が無くなる
都市部と異なり地方では、電車やバスなど交通手段が少なく、買い物や通院など日常的にクルマが必要で、免許が無ければ生活していけないという地域も。
高齢者だけの世帯では送迎してくれる若い家族もいないので、免許が手放せないのです。
就業人口の減少
「生涯現役社会の実現」ということで、高齢になっても元気なうちは就業することを国も施策として勧めていますし、積極的に雇用する業種もあります。
しかし高齢の従事者も多い一次産業や、人手不足でシニア層の職員も多い介護業界などでは、運転免許が欠かせない場合もあり、就業人口の減少を防ぐためにも、高齢だからという理由で一律に免許の強制返納をさせることには反対意見があります。

【職業別】70歳以上免許返納義務化による支障

政府統計による産業別の就業者数から、免許返納を義務化した場合の影響について考えてみましょう。

農業

農業の就業者総数2019年

10代1万人50代28万人
20代10万人60~64歳27万人
30代15万人65歳以上121万人
40代23万人  

出典:政府統計の総合窓口

農業では若い年代ほど就業者が少なく、年代を追うごとに多くなっています。

特に65歳以上が各年代で就業者がいちばん多く、その数も桁違いになっていることがわかります。

農業では耕作や作物の運搬にも運転免許は欠かせないので、義務化すれば農業を担う就業者総数の半数以上が就業できない事態に陥ります。

漁業

漁業の就業者総数2019年

10代0万人50代1万人
20代0万人60~64歳1万人
30代2万人65歳以上5万人
40代2万人  

出典:政府統計の総合窓口

漁業は就業者自体がほかの産業に比べ少なく、10代20代の若い年代の就業者はほとんどみられない現状です。

農業と同様に就業している総数の半分以上が60代以上の年代で、免許返納の義務化は大きく影響するでしょう。

医療・福祉業

医療・福祉業の就業者総数2019年

10代3万人50代172万人
20代138万人60~64歳65万人
30代161万人65歳以上87万人
40代207万人  

出典:政府統計の総合窓口

介護を含む医療・福祉業の就業者数は非常に多くなっています。

一次産業と違い、働き盛りの年代の人数が多くなっていますが、65歳以上でも87万人の人が就業しているので、この年代以上の免許返納義務化は、ただでさえ人手不足と言われる医療・福祉業界にダメージを与えることは避けられません。

おわりに

高齢者の運転免許の返納義務化にはまだまだ課題がありますが、今後社会の高齢化はますます加速化していくので、悲惨な事故を繰り返さないためにも、高齢ドライバーに対する具体的な事故防止の対策は急務でしょう。

この問題についての積極的な議論と取り組みが求められています。

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