認知症の親に音楽療法をしたいんだけど、どんな効果があるのかな?
このように
- 音楽療法の効果について詳しく知りたい
- 認知症の親に音楽療法をしたい
など上記の方々はこの記事を読むことで解決できます。
この記事では、音楽療法とは、音楽療法のメカニズム、日本での音楽療法の歴史、世界で行われている音楽療法、音楽療法の目的、音楽療法の対象者とその効果、音楽療法の有効性、音楽療法の実施方法、などについてわかりやすく解説していますのでぜひ参考にしてみてください。
音楽療法とは?
やさしい歌声や、ピアノ、バイオリンなどの柔らかな音色には心が和みますね。
落ち込んでいる時に、好きな歌や元気の出る曲に勇気づけられた経験は誰にでもきっとあるのでは?
このように音楽には人の心を癒したり、気力を回復させ意欲を起こさせるなどの良い効果があります。この音楽の力を使った音楽療法は近年、医療や介護、福祉の多くの場面に取り入れられています。
非薬物療法の1つである
音楽療法とは、音楽を使ってその心理的・生理的な作用により、障害の軽減や症状を改善する、非薬物療法の1つで、資格を持った音楽療法士によって行われます。
音楽療法を方法で分類すると以下の4つに分けられます。
- 受動的音楽療法
音楽を聴くことで行う - 能動的音楽療法
歌を歌ったり楽器を演奏する
- 個人音楽療法
- 集団音楽療法
20世紀から幅広い分野で研究された
古くから音楽は、宗教儀式や治療において、その効果が重要なものとされてきましたが、20世紀に入ってから、米国で音楽の治療効果が科学的に研究されるようになり、戦争で怪我をして病院に収容されている傷病兵の治療に音楽療法が用いられて、他の分野にも多く実践されるようになりました。
1950年に全米音楽療法協会が設立されたことで、音楽が人に与える影響や効果について、心理学や脳科学など、より幅広い分野で研究が進められてきました。
音楽療法のメカニズム
脳を活発に働かせる作用がある
音楽が脳内に取り込まれるとき、音の高さは側頭葉の聴覚野で、リズムは小脳・基底核・前頭葉の回路が働いて取り込まれ、歌う時には前頭葉から運動野、そして喉や舌へと「歌う」という命令が伝わります。
音を使った音楽療法には、このように脳のあらゆる部分を活発に働かせる作用があると考えられます。
認知症の方などに効く音楽
また人がリラックスしている時に現れる脳波の一種α波は、穏やかな音楽を聴いて緊張がほぐれた時にも出やすい波形と言われているので、リラックスが必要な症状の時に音楽を使って緊張を緩和したりストレスを軽減させるなど、心理状態に働きかけることができるのです。
それにはゆったりと単調な曲が良く、クラシック曲、特にモーツアルトが適していると言われています。
日本での音楽療法の歴史
日本では1950年代から、音楽療法の概念が音楽大学で学ばれるようになり、60年代から70年代には小規模の研究グループや組織がいくつか設立されて、音楽療法の研究が進められてきました。
それらの団体を結びつける形で1995年には日本音楽療法連盟が設立され、その後日本音楽療法学会として2001年に発足、日野原重明氏が名誉理事長を務めていました。
日本音楽療法学会では、音楽療法士の資格認定や音楽療法の研究と啓発活動を行っており、多くの音楽療法士を生み出していて、会員数は2004年の段階で6000人以上となっています。
世界で行われている音楽療法
以下の5つが世界の五大音楽療法と言われています。
世界の五大音楽療法
- ISO理論
- GIM
- 行動療法的音楽療法
- 精神分析的音楽療法
- ノードフ・ロビンズ音楽療法
福祉国家として有名なノルウェーでは音楽療法士は政府の認定資格で、音楽療法のモデル地区を作って地域が一体となって取り組むなど、活動が盛んです。
同じ北欧のスウェーデンでは、音楽療法士のステン・ブンネ氏が考案したブンネメソッドにより、医療や福祉の分野で音楽ケアが行われています。
このブンネメソッドはハンディキャップがある方でも演奏できるような4種の楽器を使った音楽療法で、日本でもこのメソッドをケアに取り入れている高齢者施設があります。
フランスでは、手術前に患者に音楽を聴かせることで得られるリラックス効果や、術後などの痛みを和らげる効果について、麻酔科による音楽療法の研究も行われています。
音楽療法の目的
精神症状を軽減させる
音楽療法の目的は、ストレスなどで緊張やうつ状態にある精神に働きかけて、その精神症状を軽減させることや、音の刺激が脳に働きかけ集中力や記憶力の改善を図ることで、身体の障害や症状に対しても良い影響を与えることです。
音楽を聴く「受動的音楽療法」では、穏やかな曲を聴くことでストレスが軽減したり、リズミカルな明るい曲を聴くことで意欲的になる効果が期待されます。
社会性をはぐくめる
自ら歌ったり楽器を演奏する、踊るという「能動的音楽療法」では、自己表現することで自信や満足感を得ることが精神に良い影響を与えたり、病気や障害が原因で言葉や感情表現が苦手な人の場合、音楽を用いることで周囲とのコミュニケーションをスムーズにし社会性をはぐくむ、という目的もあります。
音楽療法の対象者とその効果
では、具体的にはどのような症状の人にどのような効果がみられているのでしょうか。
認知症の方への効果
音楽療法は認知症の高齢者のケアにも多く取り入れられています。認知症の人は、比較的最近の短期記憶はすぐに忘れてしまいますが、子どもの頃のことなどは案外はっきり覚えていたりします。
そうした長期記憶を思い出すことは脳に良い刺激となり、軽度の認知症の場合に集中力や記憶力の改善がみられたという研究結果も報告されています。また心理面が安定することで徘徊などの問題行動が軽減し、介護がスムーズに行えるという効果もあります。
デイケアやデイサービスのレクリエーションでは、懐かしい童謡や唱歌を歌って昔の出来事を回想するきっかけにしたり、簡単な手遊びや体操を音楽に合わせて身体を動かすなどの方法で、音楽療法の技法が用いられています。
また、歌を歌うことは嚥下障害や発語障害のリハビリにも効果的です。
難聴などの聴覚障害を持つ方への効果
耳鳴りが気になる場合に、適した種類・音量の音楽を耳元で流し、耳鳴りを気にならないようにして症状を和らげたり、突発性難聴では、症状のある耳で音楽を聴く音楽療法によって、耳と脳の情報伝達を改善させることが期待され、薬物療法と並行して行われています。
また、聴覚障害を持って生まれた子供の場合、補聴器や人工内耳などで聴覚の補償をするとともに音楽療法を行うことにより、楽器の音や話し声などを認識できるようになり、聴覚や発声、親子のコミュニケーションの発達に良い影響を与えることがわかっています。
参考 突発性難聴の新治療 積極的に音楽を聴かせ聴力を回復させる│NEWSポストセブン
参考 音楽療法を通した先天性難聴児への支援について|東京ミュージック・ボランティア協会
精神疾患を持つ方への効果
精神疾患の人の障害者(障害児)ケアにも音楽は用いられます。知的障害、統合失調症患者の場合、音楽を用いることで他者とコミュニケーションが取りやすくなったり、集団での音楽療法により社会性が育まれたりします。
また不安障害、うつ病、自律神経失調症などでは、音楽療法はストレスを軽減し精神を安定させるので、睡眠など生活リズムの改善や意欲の上昇、不安や緊張などの精神症状や頭痛などの身体症状の改善に有効で、その結果、薬の減薬にも役立つとされています。
発達障害の子供たちへの効果
発達障害「自閉症スペクトラム障害(ASD、アスペルガー障害)、注意欠如・多動性障害(ADHD)」の子供たちの治療やケアにも音楽療法が使われています。
ADHDの子供は個人差はありますが、集中力がなく、じっとしていることや考えて行動するということができないのが特徴で、自閉症スペクトラムの子供はこだわりが強く自分のルールに従って行動する、他人の表情や感情を読めないという特徴があるため、両者とも他者とのコミュニケーションが苦手です。
これらの障害は、はっきりと区切ることができない場合も多く、人によっていくつかの障害を併せ持っていることもあります。
こうした多様な障害を持つ子供たちに対して音楽療法は、表現力や想像力の発達を促して社会性を育んだり、発声や発語、運動機能のトレーニングとして効果的な療法です。
参考 https://h-navi.jp/column/article/35026032
癌患者の緩和ケア
重い癌を患っている患者のターミナルケア(終末期医療)では心と身体の苦痛を取り除く緩和ケアが中心になります。
患者が死への怖れや不安からくる否認や怒りの反応を経て、最終的に自分の状態を受容し、自分らしい穏やかな最期を迎えるために、心の安定を助けたり、痛みを和らげるなど、音楽は重要な役割を果たします。
妊婦の精神的ケアと胎教に
妊婦の妊娠中の精神不安の解消や胎児への胎教にも音楽療法は効果的です。妊娠中は出産の不安や身体の変化によって心が不安定になりがちですが、リラックス効果のある音楽を聴くことで、緊張をほぐし気持ちのバランスを取り戻すことができます。
お母さんの気持ちが安定していることは、お腹の胎児への胎教にも良い効果があります。
てんかん発作の改善
てんかんには音楽誘発てんかんという、音楽を聴くことで発作が起こるものもありますが、その場合、発作を誘発する音楽の前に発作が起きない種類の音楽を聴かせる脱感作療法が効果をあらわした例もあります。
脳梗塞やパーキンソン病の方のリハビリ
脳梗塞の後遺症を持つ人のリハビリでは、患者が理解できる歌詞を含む好きな音楽を、日常的に聴いていた人の方が、言語記憶の回復が早いという例があります。
また、同じく脳細胞の損傷により運動機能や言語に障害が出るパーキンソン病でも、筋力を保つ運動や発語のトレーニングに音楽療法が用いられています
吃音や喘息の治療に
他にも音楽療法は吃音の治療などにも応用され、気管支喘息の子供たちのために良い呼吸方法をするための「ぜんそく音楽療法」を行っている病院もあります。
音楽療法の有効性
メリットの研究報告が多くデメリットはない
音楽療法の有効性や科学的根拠については、疾患や症状によっても幅があり、いまだ研究の途上と言われています。
しかし、科学的な証明がまだ確実ではないにしろ、治療や介護に携わっている医療者や介護者からみて、音楽療法を施すことで何らかの良い影響がみられたことが多数報告されています。
その中でも多いのが、認知症、パーキンソン病などの神経疾患に対するもので、例えば認知症では心理上・行動上の問題や異常(BPSD)を抑制する音楽療法の有効性が日本でもいくつかの大学で研究報告がされており、音楽療法が活用されている多くの症状の中でも、認知症への効果には特に多くの期待が集まっています。
またパーキンソン病の症状の1つである歩行困難には、音楽のリズムが有効に働くことがわかっていて、「もしもしカメよ」などを歩くリズムで口ずさむことで、歩行が改善した例が三重大学の佐藤正之准教授によって報告され、欧米の医学誌にも掲載されました。
非薬物療法の1つである音楽療法には、このようにメリットの研究報告は多くありますが、デメリットはなく、今後も様々な領域での活用と効果が期待されています。
音楽療法の実施方法
音楽療法の実施方法は、対象者や実施場所、どのような効果を期待するかの目標設定により、多少の違いが見られます。
実施方法 | |
高齢者施設 デイサービス デイケア |
リハビリや体力づくりを目的に、座ったままや少ない 動きで無理なくできる体操や脳トレにもなる曲名あて 手遊びをしながら行う合唱など |
児童福祉施設 | 集団で楽しみながらできる楽器の演奏 やダンスによってコミュニケーション能力を高める |
障害者施設 病院 |
障害を負っている身体や精神の機能の改善や症状の軽減 |
では音楽療法の具体的な方法を、高齢者施設でのレクリエーションを例に見てみましょう。
音楽療法を使ったレクリエーションの実践例
準備するもの
参加者になじみのある童謡・唱歌・歌謡曲などから使う歌を何曲かを選びます。
曲の選び方は季節や行事に合わせた歌を中心に3~4曲にし、歌詞は大きな模造紙に書いて準備します。
カスタネットやトライアングル、ハンドベルなど、参加者がその場で簡単に演奏できる楽器を用意したり、歌に合わせた小物(季節の花、クリスマスやお正月の飾り、おひなさまなど)など、気分を盛り上げる小道具なども用意します。
プログラムのつくり方
ただ合唱できる歌の他に、簡単な演奏を楽しめるもの、手をたたいたり足踏みなどで体を動かせる曲も入れてプログラムを組みます。
また曲の合間に、内容にまつわる質問やクイズのような頭を使う内容を入れると、記憶を呼び覚ます脳トレにも効果的です。
【 例)3月のプログラム 】
- 導入
おひなさまや桃の花を飾り、季節の話題などから参加者とコミュニケーションを取ります。 - 歌唱(1曲目)
「うれしいひなまつり」を歌詞を見ながらみんなで歌います。 - 歌唱のあと質問
「ひなまつりといえば、どんなものを思い浮かべますか?(食べもの、花、ひな人形など)」
「誰とどんなふうに過ごした思い出がありますか?(家族の名前や友達の名前など)」
というような質問を全員にして答えてもらいます。
思い出したことを言葉にすることで、記憶を引き出す脳のトレーニングになります。 - 歌唱(1曲目)
情景を思い出しながら、もう一度歌ってみます。普段あまり歌わない2番の歌詞から始めてもいいでしょう。 - 楽器演奏(2曲目)
カスタネットや鈴など準備したものから好きな楽器を参加者に選んでもらい、曲に合わせて鳴らしてみます。 - 体操や手遊びなど(3曲目)
身体を動かせる曲で簡単な運動をします。「しあわせなら手をたたこう」など。 - 歌唱(4曲目)
「ふるさと」など、ゆったり穏やかな曲をみんなで歌って終了します。
参考 音楽療法・音楽レクで使える「歌のプログラム」|音楽療法講座
季節の歌の例 1月~12月
季節の歌 | |
1月 | 「一月一日」「凧のうた」「富士山」 |
2月 | 「豆まき」「雪」「雪山賛歌」 |
3月 | 「うれしいひなまつり」「春の小川」「早春賦」 |
4月 | 「さくらさくら」「どこかで春が」「花」 |
5月 | 「こいのぼり」「背くらべ」「池の鯉」 |
6月 | 「雨降りお月さん」「かえるの合唱」「でんでんむし」 |
7月 | 「七夕さま」「夏の思い出」「茶摘み」 |
8月 | 「うみ」「われは海の子」「花火」 |
9月 | 「十五夜お月さん」「赤とんぼ」「故郷の空」 |
10月 | 「小さい秋みつけた」「もみじ」「炭坑節」 |
11月 | 「たき火」「里の秋」 |
12月 | 「赤鼻のトナカイ」「きよしこの夜」「お正月」 |
レクで使える!懐かしい季節の歌・童謡CD
介護施設の音楽療法を取りいれたレクで人気のあるCDを集めてみました。参考にしてください。
レクリエーション時の注意点
高齢者向けに音楽レクのプログラムを行う場合、注意点がいくつかあります。
体力が無い高齢者のレクでは、暑い夏などは特に疲れやすくぼんやりしてしまうことも多いので、時期や参加者の体調によっては、適度に休憩を入れるなど余裕のある時間配分にし、複雑な内容を避けシンプルなプログラムにします。
また、毎回プログラムの終わりには、ゆったりした曲でクールダウンするのも大切です。
認知症の方などは、その後も気分の高揚が続くと、思いがけない行動をすることがあるので、気分を落ち着ける工夫が必要です。
クールダウンの曲は季節を問わず毎回同じにするのも、参加者が「この歌を歌うと終了」と意識できるのでおすすめです。
おわりに
さまざまな疾患に対して、多くの治療法や薬が開発されている現代ですが、そのような科学的な治療法だけではなく、心と身体に良い影響を与えてくれ、楽しみながら取り組める回想法やアロマオイル療法など色々な非薬物療法が近年注目されています。
参考 回想法は認知症高齢者に治療効果大!効果的なやり方と資格や本を紹介
参考 認知症の予防改善にアロマオイル驚きの効果?|たけしの昼夜配合とは
中でもこの音楽療法は、増加する高齢者の予防医療の1つとしても期待される療法です。
音楽療法士の資格を持った医療者に限らず、自宅での介護などにも音楽の効果を取り入れていくことで、ケアや生活の質を向上させていくことができます。費用対効果が高いところも、評価されている音楽療法。ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。