介護士として働く人の多くが経験する腰痛。日常的に腰に負担のかかる作業が多いため、時には症状が重くなり働けなくなることもあります。
ぎっくり腰になってツライ。労災の適応されるのかなぁ。
ヘルニアになったっぽい。。労災申請方法が知りたい
上記のように業務が原因でなった腰痛の労災申請方法が知りたい方はこの記事を読むことで解決できます。
この記事では腰痛になった時の労災認定基準、給付の種類、労災申請方法、申請する時の注意点について詳しく解説しますのでぜひ参考にしてみてください。
介護士が腰痛・ヘルニア・ぎっくり腰になる4つの原因
欧米の介護事業では介護機器、特に移乗用リフトなどの導入が進んでいますが、日本ではどんな場面でも介護は人の手で行うものという意識が根強く、それが機械化、ひいては介護士の腰痛問題を減らす妨げとなっています。
腰痛とは厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」によると、ぎっくり腰、椎体骨折、椎間板ヘルニア、腰痛症などのことをいい、その要因は動作要因、環境要因、個人的要因、心理的要因が挙げられます。
介護士の仕事では、利用者を抱え上げるなどで過度な重さがかかるなどの「動作要因」に、他の要因がそれぞれ加わり、組み合わされることが腰痛を引き起こしていると考えられます。
【原因1】動作要因
前屈みや中腰姿勢での作業
低床型ベッドでのオムツ交換や、車いすの利用者への食事介助、入浴介助での洗体作業など、介護士の作業には低い位置にいる利用者に対して、前屈みや中腰の姿勢でするものが多く、この体勢を長く続けることで腰に負担がかかり、この筋肉の持続的緊張が筋膜性腰痛の原因となります。
重いものの持ち上げ
要介護の人を車いすからベッドに移乗させたり、トイレや入浴介助の際に、抱え上げる・持ち上げる・運ぶなど体重を支える作業も腰に大きな負担がかかります。重いものを持ち上げる時の椎間板へ無理な荷重は、椎間板ヘルニアの原因となります。
【原因2】環境要因
温度や湿度、床の状態、設備の配置など施設の環境や状態と、休憩時間や休日、勤務編成などの勤務状態が環境要因に入ります。
例えば、設備の配置が悪いために不自然な体制を強いられ腰に負担がかかるとか、十分な休憩が取れないので、長時間腰にも無理な負荷がかかり続けている、というような要因です。
【原因3】個人的要因
介護士自身の年齢や性別、既往症や疾患、体格や筋力がこの要因に入ります。 例えば女性は男性よりも筋力が少なく、体格も小さいことから、作業や重量の負担が大きくなります。
また既往症では椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など腰痛の既往症のほか、婦人科系疾患や血管性疾患、泌尿器疾患なども影響すると考えられます。
【原因4】心理・社会的要因
職場での同僚や利用者との人間関係やトラブル、能力や適性に合わない職種や負荷、長時間労働での心理的負担など、精神的なことも要因とされています。
参考 腰痛の労災認定
腰痛・ヘルニア・ぎっくり腰の介護士の労災認定基準は?
社会福祉・介護事業の労災発生件数は毎年増加し、平成27年度上半期の集計でも、前年比に対し4%増となっています。このうち腰痛が占める割合も高く、平成22年度の938件から年々増え26年度は1023件となっています。
この労災に認定される腰痛とは、医師により療養が必要とされた腰痛であることを前提に、大きく以下の二つに分けられます。
災害性の原因による腰痛
ケガによる腰痛で、以下の2つの条件を満たしているものが、災害性の原因による腰痛となります。
- 腰の負傷または負傷の原因となった急激な力の作用が仕事中の出来事によって生じたと認められること
- 業務上で腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症や基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
しかし「ぎっくり腰=急性腰痛症」の場合は日常生活の中でも起きる症状なので、仕事中に起きても労災の補償の対象とはなりません。(ただし一定の条件により認められる場合もあります)
災害性の原因によらない腰痛
上記以外で「突発的な出来事が原因ではなく、腰に過度な負担がかかる仕事に従事した労働者に発症した腰痛で、作業状態や作業期間から見て、仕事が原因で発症したと認められるもの」のことをいいます。
発生の原因により以下の2つに区分して認定の判断がされます。
- 筋肉等の疲労を原因とした腰痛 (無理な姿勢を維持するなどの業務に3ヶ月以上従事して発症したもの)
- 骨の変化を原因とした腰痛 (おもに重量物を扱う業務などに10年以上継続して従事し発症したもの)
参考 労働保険給付の概要
労災によって受けられる給付
労災に認定されると、条件により以下の給付を受けることができます。
療養(補償)給付
治療にかかった費用が給付される。
休業(補償)給付
療養のため働けなくなり賃金を得られない時に、休業4日目から1日当たり給付基礎日額の60%が給付される
障害(補償)給付
障害年金
障害の程度に応じて給付基礎日額の313日分から131日分の年金が給付される
障害一時金
障害の程度に応じて給付基礎日額の503日分から56日分の一時金が給付される
療養後1年6ヶ月経っても治癒しない場合に給付される傷病(補償)年金、障害年金または傷病年金受給者のうち、第1級、2級に該当する場合の介護(補償)給付や、障害を原因として亡くなった場合の遺族給付、葬祭給付などがあります。
参考 労働保険給付の概要
腰痛による労災の申請方法
労災保険による給付を受けるためには、まず労災を申請し認定を受けなければなりません。申請は本人やその家族が行いますが、会社など職場が行ってくれることもあります。 申請方法は以下のような流れになります。
①保険給付請求書を用意する
申請する内容を確認し保険給付請求書を用意します。給付の種類によって請求書の様式は異なりますが、いずれも厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
②必要書類に記入する
該当する箇所に本人が記入します。 住所・氏名のほか、災害(労災の原因となった出来事)が発生した状況などを書く欄があります。
療養について医師が記入する欄や、事業所(雇用主)が記入する箇所もありますので名称・所在地・代表者名などを記入してもらいます。
記入すると会社は労災があったと認めることになりますので、中には記入してくれない場合もあります。その場合は、書類を提出する際にその旨を労働基準監督署に報告してください。
参考 療養給付請求書書式
③書類を提出する
書類は労働基準監督署署長あてに提出します。
しかし療養給付の請求で治療を受ける病院が労災病院・労災指定の医療機関の場合のみ、現物給付(無料で治療を受けることができる)してもらうことができますので、書類はその医療機関を通じて所轄の労働基準監督署へ提出されます。
申請の際の注意点
腰痛での労災申請は、在職中・休職中だけではなく退職してからも可能です。 しかし、申請には時効があるので注意が必要です。
請求権の時効について | |
療養(補償)給付 | 療養のための費用が確定した日から2年経過後 |
F1休業(補償)給付 | 療養のため賃金を受けない日ごとに、請求権が発生し、その翌日から2年経過後に請求権が消滅 |
F2障害(補償)給付 | 傷病が治った日の翌日から5年経過後、障害年金前払い一時金の場合は2年経過後 |
介護(補償)給付 | 介護を受けた月の翌月の1日から2年経過後 |
おわりに
腰痛予防の対策として厚生労働省は、作業の機械化や補助機器を導入すること、取り扱い重量については男性の場合は体重の40%以下、女性はその60%となるように通達を出していますが、周知が徹底されておらず罰則規定も無いため、介護の現場ではほとんど守られていないのが現状です。
そんな中でも無理をして働き続けている介護士は多いでしょう。 しかし、介護士が健康でなければ良いケアを提供することもできません。つらい腰痛を我慢して勤務しているなら、勤務体制や環境について可能な限り職場に働きかけたり、場合によっては職場を移ることも考えた方がいいでしょう。
もしも働けないほどの状態になってしまったとしたら、その後の生活や治療のためにも、迷わず労災を申請することをおすすめします。 あなたが申請をすることで、勤務を続けている人の職場環境を改善するきっかけとなるかもしれません。