2016年末に財務省と厚生労働省の協議により「高額療養費制度の見直し」が決定されました。高額療養費制度は見直しによりどのように変わったのかをご説明します。
高額療養費制度の見直しの経緯
高齢者と若年者の公平性を保持する
今までの医療費負担の上限額を比較してみると、若年者より高齢者の医療費負担の上限額が低く設定されておりました。
2017年7月までの診療分を「69歳以下」と「70歳以上」で比較をしてみましたのでご覧ください。
2017年7月までの診療分を比較 | |||
年収 | 69歳以下 | 70歳以上 | |
適用区分 | 外来+入院 (世帯) |
外来 (個人) |
外来+入院 (世帯) |
約370万円以上 | 252,600円 (140,100円) |
44,400円 | 80,100円 (44,000円) |
167,400円 (93,000円) |
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80,100円 (44,400円) |
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約370万円まで | 57,600円 (44,000円) |
12,000円 | 44,000円 |
住民税非課税世帯 | 35,400円 (24,600円) |
8,000円 | 24,600円 |
住民税非課税世帯 (80万円まで等) |
15,000円 |
年収370万以上のラインで比較すると「70歳以上」の方が上限が低く優遇されているのがわかります。
政府は膨らみ続ける医療費を抑えるため、さらに高齢者と若年者との公平性を図るため、所得が高く支払いに余力のある高齢者の負担がより必要との観点が財務省・厚生労働省の考えです。
高額療養費制度の見直し内容とは?
今回の見直しは平成29年(2017年)8月から適用になります。医療保険制度の維持と医療費の費用負担の公平化を図ることを目的としています。
平成29年8月から対象者・負担上限額はこう変わる
今回の見直しで変わるのは、「70歳以上の月ごとの上限額」です。
負担上限額は、
- 現役並み所得の外来(個人)44,400円 → 57,600円に変更
- 一般所得の外来(個人)12,000円 → 14,000円(年間上限:14万4,000円)に変更
- 一般所得の外来+入院(世帯)44,400円 → 57,600円(多数回:44,400円)に変更
平成29年8月から平成30年7月診療分まで | |||
70歳以上 | |||
適用区分 | 外来 (個人) |
外来+入院 (世帯)※1 |
|
現役並み | 年収約370万円~ 標報28万円以上 課税所得145万円以上 |
57,600円 | 80,100円 (44,000円) |
一般 | 年収156万~約370万円 標報26万円以下 課税所得145万円未満等※2 |
14,000円 (年間上限 14万4千円) |
57,600円 (多数回 44,400)※3 |
住民税 非課税 |
Ⅱ 住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) |
15,000円 |
※1 同じ世帯で同じ保険者に属する者になります。
※2 収入の合計額が520万円未満(1人世帯の場合は383万円未満)の場合も含みます。
※3 過去12ヶ月以内に3回以上、上限額に達した場合、4回目以降からは「多数該当」になり、上限額が下がります。
今まで国民健康保険の運営管理等は市町村でしたが、平成30年度からは都道府県に変更されます。これにより、同一県内で他の市町村に引っ越した場合、引越し前と同一世帯であると認められれば、高額療養費の該当回数カウントが引き継がれます。よって一般所得(多数回:44,400円)に該当しやすくなり負担額軽減に繋がります。
高額療養費とはどんな制度?
高額療養費制度とは、医療機関(病院・薬局等)の窓口で支払ったひと月分の医療費が高額になった場合、自己負担が重くならず家計の負担を軽減できるように、一定の金額(自己負担限度額)を超える分が、あとで保険者から払い戻し(償還払い)される制度になります。
自己負担限度額は、被保険者の所得に応じて設定されます。そのため、所得が多い方の自己負担限度額の上限は高く設定されています。
69歳以下の上限額
平成29年8月から平成30年7月診療分まで | ||
69歳以下 | ||
適用区分 | 外来+入院 (世帯)※1 |
|
ア | 年収約1,160万円~ 健保:標報83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 |
252,600円 + (医療費-842,000)×1% |
イ | 年収約770~約1,160万円 健保:標報53万円~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 |
167,400円 + (医療費-558,000)×1% |
ウ | 年収約370~約770万円 健保:標報28万円~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 |
80,100円 + (医療費-267,000)×1% |
エ | ~年収約370万円 健保:標報26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 |
57,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
70歳以上の上限額
70歳の方の場合、外来だけの上限も設定されています。
平成29年8月から平成30年7月診療分まで | |||
70歳以上 | |||
適用区分 | 外来 (個人) |
外来+入院 (世帯)※1 |
|
現役並み | 年収約370万円~ 標報28万円以上 課税所得145万円以上 |
57,600円 | 80,100円 (44,000円) |
一般 | 年収156万~約370万円 標報26万円以下 課税所得145万円未満等※2 |
14,000円 (年間上限 14万4千円) |
57,600円 (多数回 44,400)※3 |
住民税 非課税 |
Ⅱ 住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) |
15,000円 |
高額療養費を「世帯合算」して負担を軽減
自分1人分に自己負担では上限を超えない場合でも、複数の受診や、同じ世帯にいる方(同じ医療保険に加入している方のみ)の受診の自己負担額を1ヶ月単位で合算することができます。
その合算した額が自己負担限度額を超えた場合は、超えた分が高額療養費として払い戻されます。
70歳以上一般所得の世帯合算の例
以下は70歳以上の一般所得の世帯の場合になります。
※この夫と妻は同じ医療保険に加入しています。違う場合は合算できません。
対象者 | 医療費 | 70歳以上の上限額 |
夫 | ・A病院(入院) 自己負担額 68,000円 (医療費:680,000円) |
一般所得の外来+入院(世帯) 57,600円 |
妻 | ・B病院(通院) 自己負担額 20,000円 (医療費:200,000円) ・C病院(通院) 自己負担額 5,000円 (医療費:50,000円) |
一般所得の外来(個人) 14,000円 |
夫 A病院の自己負担分
68,000円-57,600円=①10,400円
妻 B病院とC病院の通院の自己負担分
(20,000円+5,000円)-14,000円=②11,000円
夫の入院分+妻の通院分
57,600円+14,000円=③71,600円
③71,600円-57,600円=④14,000円
①10,400円+②11,000円+④14,000円=35,400円
これにより、この世帯(夫婦)に払い戻される高額療養費は、35,400円になることがわかります。
高額療養費を「多数回該当」して負担を軽減
過去1年間(12ヶ月以内)に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回該当」となり、自己負担限度額が下がります。
69歳以下の多数回該当
所得区分 | 負担上限額 | 多数回該当 |
年収約1,160万円~ | 252,600円+ (医療費-842,000円)×1% |
140,100円 |
年収約770万円~ 約1,160万円 |
167,400円+ (医療費-558,000円)×1% |
93,000円 |
年収約370万円~ 約770万円 |
80,100円+ (医療費-267,000円)×1% |
44,400円 |
~約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
70歳以上の多数回該当
所得区分 | 負担上限額 | 多数回該当 |
現役並み | 80,100円+ (医療費-267,000円)×1% |
44,400円 |
一般 | 57,600円 | 44,400円 |
高額療養費の「対象外」となる医療費
どんな医療費が高額療養費の「対象外」なのかをご確認ください。
「対象外」となる介護サービス
- 差額ベッド代
- 診断料など
- 入院時等の食事負担金
- 保険外治療(美容整形、正常な出産など)
- 雑費(おむつ代、テレビ代、病衣など)
高額療養費の申請方法
高額療養費の支給申請方法は2種類あります。
- 高額療養費を支給申請(事後手続き)
- 限度額適応認定証を発行(事前手続き)
高額療養費の申請を行う
医療機関(病院・薬局等)で医療費の自己負担分を一旦支払った場合、加入されている公的医療保険(健康保険組合・協会けんぽの都道府県支部・市町村国保・後期高齢者医療制度・共済組合など)に、高額療養費支給申請書を「直接提出」あるいは「郵送」にて払い戻しが受けられます。
なお、ご加入の医療保険によっては対象者へ「支給対象となります」と連絡がきたり、自動的に高額療養費を口座へ振り込んでくれるところもあります。
ご自身がどの医療保険に加入しているかは、保険証(正式には被保険者証)の表面に記載されておりますのでご確認ください。
高額療養費の申請時に必要な書類
高額療養費の申請時に必要な書類は以下になります。
ただし、保険者によって必要書類が異なる場合がありますので必ずご加入の保険者へご確認ください。
- 高額療養費支給申請書
- 病院等の領収証
- 保険証
- 印鑑(認印)
- 振込先の預金通帳か口座番号がわかるもの
- 世帯主と対象者のマイナンバーカードが確認できるもの
個人番号カード、通知カード、個人番号が記載された住民票のいずれか - 窓口へ来る方の本人確認ができるもの
運転免許証、パスポート、年金手帳など - 代理人が手続する場合、代理権が確認できるもの
高額療養費はいつ払い戻し(振り込み)される?
高額療養費の払い戻し額は、医療機関(病院・薬局等)から提出される診療報酬明細書(レセプト)の審査を経て行われます。
診療報酬明細書(レセプト)は、医療機関→審査機関→保険者の順に提出されるため、診療月から3ヶ月以上かかります。
高額療養費は払い戻しまで時間を要するため、医療費の支払いに充てるお金として、高額療養費支給見込額の8割相当額を無利子で貸付する「高額医療費貸付制度」があります。詳しくは協会けんぽ都道府県支部までお問い合せください。
限度額適応認定証を窓口に提示する
70歳未満の方は、保険証と併せて「限度額適用認定証」を医療機関(病院・薬局等)の窓口に提示すると、1ヶ月(1日から月末まで)の窓口での支払いが3割負担ではなく自己負担限度額までとなり、負担軽減に繋がります。
また、高額療養費の申請が不要になります。
※同月に入院や外来などの複数受験がある場合、または世帯合算や多数該当の対象となる場合は、高額療養費の申請が必要となります。
70歳以上の方は「限度額適用認定証」の手続きは不要です。保険証と一緒に「高齢受給者証」を提示することで窓口での支払いが自己負担限度額までで済むことができます。
限度額適用認定証の提示を「する・しない」自己負担の違い
限度額適用認定証を提示することでどれくらい医療費の自己負担に違いがあるのか?具体例を挙げますので参考にしてみてください。
総医療費:100万円(10割)
所得区分:ウ(年収約370~約770万円)
窓口負担割合:3割
自己負担額 300,000円を負担
【1,000,000円×3割】
高額療養費支給申請書を提出すると、のちに212,570円が払い戻されます。
自己負担額 87,430円を負担
【80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%】
高額療養費の払い戻し分(212,570円)が医療機関(病院・薬局等)の窓口で生産されるため、支払い時の負担が自己負担限度額まで納まり、高額療養費の申請が不要になります。
上記の「限度額適用認定証」を提示する・しないの違いを比較すると、かなり負担額が軽減されるのが分かると思います。
一時的な医療費の支払いは大きな負担になりますので、自己負担限度額が超えるかわからない場合でも、「限度額適用認定証の発行」をしておいた方が良いでしょう。
限度額適用認定証の申請方法・必要書類
限度額適用認定証の申請方法は、各保険者の窓口に必要書類を申請して発行してもらいます。
国民健康保険
お住まいの市区町村の国民健康保険窓口へ申請を行います。
- 【必要書類】
- 限度額適用認定申請書
協会けんぽ
お住まいの都道府県支部の窓口へ申請を行います。
- 【必要書類】
- 【低所得者の方の必要書類】
健保組合
所属している企業の健康保険組合担当窓口へ申請を行います。
- 【必要書類】
- 限度額適用認定申請書
共済組合
所属している団体の共済組合担当窓口へ申請を行います。
- 【必要書類】
- 限度額適用認定申請書
以下の提出書類は各保険者によって異なる場合がありますので、必ずご加入の保険者へご確認ください。
- 医療機関(病院・薬局等)の領収証
- 保険証
- 印鑑(認印)
- 振込先の預金通帳か口座番号がわかるもの
- 世帯主と対象者のマイナンバーカードが確認できるもの
個人番号カード、通知カード、個人番号が記載された住民票のいずれか - 窓口へ来る方の本人確認ができるもの
運転免許証、パスポート、年金手帳など - 代理人が手続する場合、代理権が確認できるもの
高額療養費の時効について
時効はいつまで?
高額療養費は、2年で時効になり申請ができなくなります。つまり、診療した月の翌月の初日から2年になります。
ただし、自己負担分をサービス提供月の翌月1日以降に支払った場合には、支払った日の翌日が時効の起算日となります。
心当たりがある方は早急にお住まいの市区町村窓口に行き確認をしてください。
時効の起算日と消滅時効の成立日はいつ?
時効の起算日と消滅時効の成立日(2年)の具体例を挙げますので参考にしてください。
例1)
- 診療した月が平成29年8月の場合
- 平成29年9月1日が時効の起算日
- 平成31年8月31日で消滅時効が成立【2年経過】
例2)
- 平成29年8月に診療した医療費の自己負担分を10月15日に支払った場合
- 平成29年10月16日が時効の起算日
- 平成31年10月15日で消滅時効が成立【2年経過】
高額療養費の時効中断とは?
保険料を納入されていない対象者には、お住まいの市区町村から督促状・催告書が届きます。
健康保険法の法的根拠では、
第193条 保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によって消滅する。
2 保険料等の納入の告知又は督促は、民法(明治二十九年法律第八十九号)第百五十三条の規定にかかわらず、時効中断の効力を有する。
とのことから、市区町村から督促状などが届いた時点で時効中断の効力があると考えられます。
同様のケースがある場合は、お住まいの市区町村に確認してみてください。
高額療養費制度を利用できなくなるケース
国民健康保険料を1年6ヶ月以上滞納されると高額療養費等の保険給付の全部または一部の支払が一時差止められることがあります。
また、被災などの特別の事情がないのに、市区町村の納付相談を無視したり応じない場合は、財産調査が実施され、滞納保険料の納付を困難とする理由に反する事実が判明した場合には、「財産の差し押さえ処分」を受けることになります。
おわりに
実際にこの高額療養費制度を利用している人、知っている人は、あまり多くなく、申請をせず払い戻しされていない方はまだまだいるのが現状です。
当てはまる人は、医療費の自己負担額が大きく減額される場合がありますので、お住まいの市区町村に確認してみてください。