遺言信託ってどんなサービスなんだろう?
このように
- 遺言信託について詳しく知りたい
- 遺言信託のメリット・デメリットが知りたい
など上記の方々はこの記事を読むことで解決できます。
この記事では、遺言信託とはどんなサービスなのか?手続きの流れからメリット・デメリット、信託銀行ごとの費用・手数料を比較しました。また遺言代用信託との違い、などについてわかりやすく解説していますのでぜひ参考にしてみてください。
遺言信託とは
信託銀行が提供しているサービス
「遺言信託」とは、遺言の作成、遺言の保管、遺言の執行をセットにした、金融機関が提供するサービスの商品名で、おもに信託銀行が取り扱っています。
取り扱いをしている信託銀行では「三井住友信託銀行」「三菱UFJ信託銀行」などが代表的で、都市銀行としては唯一、信託業務も行う「りそな銀行」でも扱っています。
信託銀行とは、一般の銀行業務のほか財産の管理や運用を顧客から委託される信託業務と、この信託業務に関わる併営業務を行っている銀行で、遺言の保管や執行・不動産売買の仲介などが、この併営業務に含まれます。
遺言信託は2通りの意味を持つ
信託銀行の商品である「遺言信託」は法律用語の「信託」とは関係が無く別のもので、家族信託などの「信託」とは「信じて財産を託す」という意味を持ちます。
遺言信託という言葉にはこのように「遺言という方法で財産を家族などに託す<信託>のこと」と「金融機関の商品名」の二通りの意味がありますが、現在では信託銀行の商品である遺言信託を指す言葉として使われるのが一般的になりました。
継続的に信託業務を行うには登録免許が必要
法律上の「信託」ではかならず委託者、受託者、受益者という立場の人がいます。この場合受託者(財産を託される人)になれる人は委託者(財産を託す人)の家族など一般の人を含みますが、不特定多数の受託者となって報酬を得るというように継続的に信託業務を行うには、信託業法により登録免許が必要になります。
商品としての遺言信託では、委託者、受託者、受益者はおらず、それぞれ遺言者と死亡通知人(相続人または受遺者)と遺言保管者兼遺言執行者(金融機関)という立場となります。
遺言信託のメリット・デメリット
現在多くの金融機関が販売している遺言信託ですが、そのメリットとデメリットはどのようなものなのでしょうか。
メリット
遺言を保管してもらえるので紛失や書き換えの心配がない
遺言信託では、相続が発生するまで取り扱い銀行が遺言書を保管するので、紛失等の心配がありません。また遺言の内容は定期的に見直すこともできます。
信頼性が高く将来にわたり安心
財産管理の専門家である信託銀行に遺言や資産の管理を任せることで、安心感が得られます。
デメリット
費用が高い
信託銀行の遺言信託は、大まかにいって100万単位の高額な費用が掛かります。
またこの費用は相続税の控除対象にはなりません。
相続で紛争が起きた場合、対応してもらえない
相続でトラブルが起きた場合、弁護士以外の者が報酬を得て紛争に介入することはできないので(弁護士法72条)信託銀行が間に入ってくれるということはなく、逆にトラブルを回避するため遺言執行者を辞退することもあります。
行えないサービスがある
たとえば相続税の申告は税理士に別途依頼する必要があり、余計に費用がかかります。
また、子の認知に関する遺言は、遺言執行者のみが手続きできることになっていますが、信託銀行では財産以外の遺言の執行は除外されているので、別に遺言執行者を選任しなければなりません。相続人の廃除も遺言信託では行えません。
遺言信託の手続きの流れ
「遺言信託」の手続きは以下のような流れで行います。
相談から契約まで
相談をする
取り扱いの信託銀行等で、遺言作成に関するアドバイスを受けます。
相続人、遺産を分けたい人(受遺者)、財産の内訳などをあらかじめ調べてまとめていくと、スムーズに進みます。
遺言を作成する
相談でまとまった内容を公正証書遺言として作成し、遺言執行者として、信託銀行等を指定します。公証役場での遺言作成には2人の証人が必要ですが、多くの場合は信託銀行等の職員が証人となります。
遺言信託の契約を結ぶ
遺言信託の約定書(契約書)をかわします。
必要書類は、作成した公正証書遺言の正本、戸籍謄本、不動産登記事項証明書、預貯金や有価証券などの財産に関する資料、印鑑証明などです。
相続が発生した時に知らせる通知者を決めます。
相続の発生後
相続の開始を通知する
遺言者が亡くなったことを、あらかじめ決めておいた通知者が銀行側に知らせます。
銀行は保管していた遺言書を相続人等に披露して、遺言執行者に就任します。
執行事務を開始する
財産や債務の目録を作って内容を精査し、遺言者の家族などが保管している通帳や証券などを預かります。
遺産の分割をする
証券の換金や預金や不動産の名義変更等を行い、相続税や所得税に関する助言も行います。
遺言執行の終了
全ての手続きを終えたら、相続人等に報告し遺言執行の終了となります。
遺言信託の費用を比較
信託銀行3社の手数料を比較
代表的な信託銀行である三井住友信託銀行と三菱UFJ信託銀行、りそな銀行の遺言信託について、費用は次のようになっています。
三井住友信託銀行 (執行コースプラン1) |
三菱UFJ信託銀行 | りそな銀行 (一般型基本コース) |
|
基本手数料 | 324000円 | 324000円 | 324000円 |
遺言保管料 | 年間6480円 | 年間5400円 | 年間6480円 |
変更手数料 | 54000円 | 54000円 | 108000円 |
遺言執行料 | 資産額の2%~0.3% | 資産額の2%~0.3% | 資産額の2%~0.5% |
最低報酬額 | 1080000円 | 1620000円 | 108000円 |
いずれも税込の価格で基本手数料には遺言作成料を含みます。
その他に必要な書類の取り寄せや交付にかかる費用、不動産登記に関してかかる司法書士手数料、不動産の売却手数料、公正役場手数料などの実費がかかります。
また最低報酬額とは、資産額にかかわらず遺言執行にかかる最低額です。
遺言代用信託とは
委託者が亡くなった後も継続して運用・管理を行う
遺言代用信託とは、委託者が金融資産を受託者となる信託銀行などに預け、自分が元気なうちから管理・運用してもらうもので、委託者が亡くなった後も、生前本人の意思で行っていた資産運用や管理を継続して行うことから「遺言の代用となる信託」ということで遺言代用信託と呼ばれます。
委託者は同時に受益者でもあり、自分で資産を使うこともできますし、自分が亡き後の受益者として子どもや配偶者も指定することで、預けていた金銭を遺された受益者(家族)が受け取ることができます。
信託できる資産額は金融機関によって異なりますが、通常は保有している金融資産のうち3分の1までなど制限が設けられていて、最低額と最高額が決められています。
遺言代用信託のメリット・デメリット
メリット
専門家の管理と運用で安心
自分が生前中から専門家に財産の運用や管理をしてもらえて、自分で資産を使うこともできます。
遺された家族がすぐに必要なお金を受け取れる
家族を受益者に指定しておくと葬儀代や当面の生活費用などを、相続の完了を待たなくてもすぐに受け取ることができます。
受け取り方の指定ができる
一時金型、年金型、併用型など受け取り方の指定ができるので、未成年者が受益者となる場合などは多額の資産を一度に受け取るのではなく、決められた額を定期的に給付するなど適した資金管理をしてもらえます。
財産が守られる
遺言代用信託の契約を結ぶことで、財産の所有権は受託者である信託銀行に移ります。そのため委託者に倒産等があった場合でも、預けた財産は守られることになります。元本保証タイプの信託なら、損をすることもありません。
デメリット
ひとりにまとめて渡すことはできない
ほかの相続人の遺留分をおかさないように、金額を決める必要があります。
金銭以外は扱えない
遺言代用信託で信託できるのは金銭のみで、不動産などを託すことはできないため、それらの資産については他の方法を講じる必要があります。
原則、解約はできない
やむを得ない事由があれば中途解約をしてもらえますが、解約手数料がかかります。
遺言信託と遺言代用信託の違い
生前か死後によって変わる
遺言信託の場合
商品としての「遺言信託」は、遺言に関して「作成」「保管」「執行」の契約をし、遺言者の死後に初めて効力を持つものです。
遺言に書かれたとおりの遺産分割等を遺言執行者である金融機関が行い、遺言の執行が終了すればそこで契約が終わります。
遺言代用信託の場合
一方、遺言代用信託は委託者の生存中から信託契約がスタートし財産管理を行うもので、扱うのは現金(預金)のみであり、生前信託とも呼ばれます。
委託者は生前中は受益者でもあり、委託者と契約した金融機関などが受託者、委託者の死後は家族など指定された人が受益者となります。
家族を第二受益者として指定しておくことで、自分の死後も設定した期間、信託契約は続きます。
遺言信託と遺言代用信託の比較表
以下の比較をみると、遺言信託と遺言代用信託は名前は似ていても、その内容も目的も全く異なることがわかります。
遺言信託 | 遺言代用信託 | |
主な内容 | 遺言を作成・保管し執行する (遺産の分割、名義変更等を含む) |
遺言者の生前から資産を管理運用し、 死後は家族など相続人に引き継ぐ |
目的 |
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遺言代用信託と生命保険の違い
相続人である家族に現金を遺すという点では、遺言代用信託は生命保険と似ていますが、条件や内容は異なります。
生命保険の場合
まず生命保険は多くの場合、加入年齢に制限があります。
これは、保険会社では多くの顧客から集めた保険料を原資として保険金を支払うので、リスクが高い(年齢が高い、持病があるなど)人が多すぎれば支払いが上回り、保険の仕組
みが成り立たなくなるからです。
それで、保険会社では年齢が高くなるほど保険料率を高く設定してバランスを取り、加入年齢にも制限を設けているのです。
そして生命保険料の内訳は、純保険料+付加保険料+配当金等で、このうち顧客に支払われる部分が純保険料、保険会社の業務にかかる費用が付加保険料なので、支払保険料がすべて受取金に充てられるわけではありません。
遺言代用信託の場合
対して、遺言代用信託は信託したすべての資産が自分のものであり、そのまま相続人に引き継がれます。
信託手数料もかからないことが多く、運用の状況によっては利息分をプラスして遺すことができます。ただ生命保険にある相続税の非課税枠が遺言代用信託にはありません。
また遺留分の減殺請求は生命保険ではできませんが、遺言代用信託では請求できるので、相続人それぞれの遺留分を考えて金額を設定するのがよいでしょう。
生命保険と遺言代用信託の比較表
生命保険 | 遺言代用信託 | |
加入条件 | 年齢や健康状態で制限あり | 制限なし |
手数料等 | 必要(付加保険料) | 多くの場合不要 |
相続税 | 非課税枠あり | 非課税枠なし |
遺留分の減殺請求 | できない | できる |
遺言代用信託の手続きの流れ
信託銀行等に相談しプランを決める
遺言代用信託で預けられる金額は、おおむね最低200万円から最高で3000万円となっていて、保有している資産(金融資産)に対する割合が規定されています。
受け取り方法は全額を一度に受け取る「一時金型」、決まった額を定期的に受け取る「年金型」、一時金型と年金型を合わせた「併用型」などから選び、期間は一般的には5年から30年のところが多いようです。
また、管理手数料(運用報酬)は無料の場合が多いですが、金融機関によって違いますのであらかじめ確認しておきます。
信託契約を結ぶ
信託銀行等と信託契約を締結し、金銭を信託します。
この時、委託者の死後、受益者(受取人)となる人を指定しますが、多くの金融機関の場合、指定できる人を家族など近い親族に限定しているようです。
受託者が資産を管理運用する
信託銀行等が預けた資産を運用し管理します。
元本保証タイプの商品では1000万円までは預金保険の対象となり、元本と利息が保証されます。
プランに応じて金銭が給付される
委託者の死後、受益者が資産を受け取ります。
支払いにより信託財産が無くなると、そこで信託契約は終了となります。
おわりに
最後に、遺言信託と遺言代用信託のそれぞれについて、利用に向いている人をおさらいしてみましょう。
遺言信託は、資産額が多く、ある程度の費用をかけても遺言の内容を確実に行ってもらいたいという人に向いている商品なので、例えば、子どもが居らず兄弟姉妹ではなく配偶者に資産を遺したい人、お世話になった人にも財産を遺したい人、または遺産の寄付によって社会に貢献したい人などにおすすめです。
遺言代用信託は、特に資産の運用や管理に重点を置き、自分の死後は家族に財産をスムーズに引き継ぎたい、という人に向いている商品と言えます。
遺言信託と遺言代用信託は、目的も用途も違う商品なので、それぞれの条件や状況によってよく検討し、より自分に合うものを選んで相続に備えることが大切です。