適度なアルコールは精神安定剤のような役割があり、疲労回復や気分転換になるなどメリットがあり、適量以下の飲酒をしている人の方が、脳の萎縮が発生しにくく認知症のリスクを低減するといった報告もあります。
しかし、ストレスを発散する為や眠れないからとお酒を飲み始めると、徐々に飲む量が増え、飲まずにはいられなくなり、お酒に依存してしまうアルコール依存症になります。
1人で寂しいとか仕事を退職し生きがいを失くして、お酒を飲んでしまうなど、比較的高齢者に多く見られ、アルコール依存は認知症になりやすいと言われています。
アルコール性認知症とは
アルコールを多量に飲み過ぎるだけでも、脳が委縮すると考えられています。
アルコール性認知症は、多量のアルコールを摂取することで、前頭葉が委縮し脳に障害が起き、脳梗塞などの脳血管障害やあまり食事をとらずに多量に飲酒することでビタミンB1が欠乏し栄養障害などを引き起こし発症する認知症です。
アルコール性認知症の原因
アルコールによる認知症の原因として考えられるのは、肝硬変や糖尿病、そして頭部外傷、多発性脳梗塞などの脳血管障害があります。また、アルコール依存による栄養失調は認知症と深い関わりがあり、特にビタミンB1が欠乏すると、ウェルニッケル・コルサコフ症候群を発症させます。
ウェルニッケル・コルサコフ症候群の特徴としては、5つの記憶障害や見当識障害が起こりやすく、アルコール依存症と同じような問題行動も見られます。
ウェルニッケル・コルサコフ症候群による記憶障害と見当識障害
短い期間での記憶の障害
ついさっきのことを忘れ何度も同じことを聞いたり、今日の日付がわからなくなります。しまった場所が思い出せず、いつも探し物をしているなど次第に思い出せないことが増えていきます。
今まで体験したことの記憶障害
健常者であれば、亡くなるまで持ち続けらると言われている記憶で、普段は考えておらず、何かのキッカケで思い出すことが出来ます。しかし、認知症ではスッポリ抜け落ちてしまい、症状が進むと、家族の名前や自分が結婚していることすら忘れてしまいます。
エピソード(体験した)記憶障害
体験したこと自体を忘れているのため、話がかみ合わなくなり、人間関係が悪化してしまうこともあります。
体で覚えた記憶の障害
洗濯物を畳むなど体で覚えたことは比較的保たれているようですので、出来ることをさせることが大切です。
言葉の記憶障害
言葉の意味が分からなくなり、「あれ」「それ」といった表現が増え、意志の疎通が困難になります。その他、作り話をすることがあります。これは、わざと嘘をついているのではなく、記憶障害により忘れている部分と覚えていることを繋ぎ合わせて話してしまうためと考えられています。
見当識障害
今日の日付や時間、また誰と話しているのかわからないなど、自分の置かれている状況がわからなくなるといった見当識に障害が出ます。はじめは時間や日付、症状が進むと季節や朝昼晩がわからなくなり、自分のいる場所がわからず迷子になり、家の中でもトイレや自分の部屋を間違えるようになります。症状が進んでくると、家族以外の人を認識できなくなり、自分と相手の関係性がわからなくなります。
問題行動や意識障害
興奮しやすく攻撃的になり、幻覚や幻聴の症状や歩行困難などが見られることがあります。また、行動が抑制できず、欲しいと思ったら盗んでしまう、食べたいものは他人の物でも食べてしまうなど思うがままの行動をしてしまいます。また、意欲がなくなり寝てばかりいるなどうつ症状などの意識障害もあります。
アルコール性認知症の対応の仕方
孤独感や寂しい気持ちにさせない
アルコール性認知症の場合、少しづつ症状が進むわけではなく、一気にひどい症状で現れることもあります。いつもお酒を飲んでいる、またはお酒をのむと問題を起こすなどがあれば、年齢に関係なく認知症を疑い早めに専門医の診断や検査を受けましょう。
家族がいない孤独感や家族に放っておかれるなどの寂しさを紛らわせようとアルコールに依存する高齢者が多く、いつの間にか酒の量が増えてしまうという事があるので、1人にしないように関わりを持ってあげることが大切です。
介護保険はどんな人が対象なの?
介護保険は通常65歳以上が対象ですが、41歳~65歳未満の第2号被保険者の場合、特定疾病であれば介護保険の対象になり、介護保険給付を受けることが出来ます。
身体障害者手帳を交付されている場合、自立支援医療制度を利用することで精神通院医療費が1割負担になります。また、障害福祉サービスを利用することができます。
症状が進み家族での対応や介護が難しくなって来たら、専門の病院に入院させたり、施設で看護してもらうなど介護保険で施設サービスを利用するなど、介護する側の負担を少なくするようにすることも必要です。
アルコール性認知症の治療方法
断酒や入院の効果とは?
アルコールを多量に摂取したことにより “不可逆的”(元に戻らない)に脳の細胞がダメージを受けているケースが多く、完全に回復することはできません。
しかし、断酒によりそれ以上の悪化を防ぎ、意識障害などの認知症の症状が改善され、機能回復するケースが多く見込まれます。入院治療で、50代では7割の人が症状を改善しますが、70代になると3割くらいに減り年齢が進むにつれ、治りにくくなるようです。
アルコール性認知症の薬物療法は?
また、アルコール性認知症は食べ物をしっかり食べずに多量飲酒する傾向があり、栄養のバランスが崩れたり利尿作用で排出が促進され、ビタミンB1が欠乏しやすくなりますのでチアミンを投与されます。
その他、アルツハイマー型を併発している認知症では、エーザイ株式会社開発され販売している「アリセプト」が脳の活性化を促し進行を抑制する効果があり、古くから認知症治療薬として使用されています。
剤型は、少しの水分で溶ける口腔内崩壊錠、1口サイズのゼリー剤、そしてそのまま粉末か、水に溶かし液体として飲むことが出来るドライシロップなどがあります。
参考 アリセプト、メマリー、リバスタッチ、レミニールの効果や副作用を比較!
アルコール性認知症の精神障害年金について
障害年金受給の種類や条件は?
労働の制限や日常生活においての困難の程度により、障害の等級が判断されますが、認知症は精神障害年金受給の対象になります。
精神疾患の障害年金認定には、病名欄にWHO(世界保健機構)が定めた診断基準の精神疾患分類・ICD10コードが必要になり、アルコール性認知症の診断基準となるICD10コードは“F107”です。
精神障害年金は、年金の種類により「障害基礎年金」と「障害厚生年金」に分けられ、精神障害での年金受給については、初診日が国民年金、もしくは厚生年金の加入期間中であることが重要になります。
その他に、年金保険料を一定期間納付していることや障害の状態が障害等級に該当していることが条件になっていますので、詳しいことは、市町村の年金担当課に相談してみましょう。
おわりに
アルコール依存の場合、発症時期にもよりますが、大体平均寿命は53歳前後と言われています。一般的な日本人の平均寿命が大体83歳ですので、それに比べるとだいぶ短くなります。
まずは、アルコールがいかに自分や家族の負担になってしまうかを考え、治すためにはしっかりと断酒するという強い意志を持ち本人も家族も取り組んでいくことが大切です。
その為には、家族とのコミュニケーションを大切にし、アルコール依存も認知症も早期発見で、一日でも早い治療に取り組みましょう。