厚生労働省の調べでは、日本全国の軽度認知障害(MCI)の有病率は2012年時点で462万人いることがわかっています。全世界で見ると毎年約800万人づつ増えおり、超高齢化が進み非常に重要な問題です。 ここでは、軽度認知障害になったときの対策や診断されたときの治療法などをご紹介します。
軽度認知障害(MCI)とは?
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)とは、認知症を発症してはいないが完全な健康体ではないグレーゾーンの段階の状態を指します。例えば「なんか物忘れをする」「うっかりすることが多い」など。
認知機能とは「記憶、決定、判断、理解、理由づけ、実行」などの中で、どれか1つに問題が生じるものの日常生活を営む分にはさし支えない状態になります。
軽度認知障害3つの定義
1996年にアメリカのピーターソンらが提唱した軽度認知障害(MCI)の5つの診断定義があります。
- 本人または家族による記憶障害の訴えがある
- 健常高齢者に比較して記憶が低下している
- 全般的認知機能は概ね正常である
- 日常生活上問題なし
- 認知症ではない
しかし認知症の前段階で現れる認知機能障害は記憶障害だけではない!など疑問視する声が多くなりました。
そこで2003年に軽度認知障害の定義が新たに変わり以下の3つになりました。
- 本人または家族から認知機能低下(記憶、決定、判断、理解、理由づけ、実行)の訴えがある
- 認知機能は正常とは言えないものの認知症の診断基準も満たさない
- 複雑な日常生活動作に最低限の障害はあっても、日常生活は普通に過ごすことができる
このことから軽度認知障害(MCI)は物忘れだけではなくほかの認知機能低下も起こりますが、日常生活は問題なく送ることができます。さらに軽度認知障害(MCI)と診断されても適切な治療を行うことで、軽度認知障害の進行や認知症の発症を抑制させたりすることができます。
MCIには4つのタイプがある
近年、軽度認知障害(MCI)には記憶障害の有無、さらに細分化されそのほかの認知機能障害の多い・少ないによって4タイプに分類されます。
健忘症タイプ(記憶障害がある)
一般的な物忘れと違う記憶障害のため、放置すると約50%の人が進行してアルツハイマー型認知症に移行すると言われています。また、そのほか脳血管性認知症、うつ病も含まれます。
非健忘症タイプ(記憶障害がない)
記憶障害はありませんが、それ以外の認知症の中核症状の1つ高次脳機能障害に失語や失認などの症状が現れ、前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症、脳血管性認知症になると言われています。
参考 認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)の関係性と対応方法について
軽度認知障害(MCI)の症状
軽度認知障害の症状は、上記で挙げた3つの定義である認知機能の低下が現れて自覚または家族が気付きます。では具体的に「認知機能の低下」とはどんな症状が現れるのか?は以下をご覧ください。
注意障害
前までできていた作業(仕事や家事など)で間違えることが増えて、「大丈夫かな?」と確認することも増えます。そのため、財布を置き忘れてしまったり、薬を何度も飲んでしまい管理することが困難になってきます。
実行機能の障害
物事を計画的に行うことが困難になってしまいます。例えば料理の工程1~10までのところ途中の4で終了してしまったり、片づけることが難しいため、仕事の書類や部屋の整理整頓などをすることが困難になってきます。
記憶障害
一番多い症状がこの記憶障害です。家族や知人などに同じことを繰り返し何度も言ったり聞いたりしてしまいます。また「どこかに行く」「人と会う」などの予定を忘れてしまい、最近の出来事を思い出すことが困難だったり、覚えていなく「うっかり」することがあります。
記憶障害が多くなってきたら注意が必要です。
言語障害
対象物の名前が出てこないことが多くなり「アレ」「ソレ」などと言うことが増えます。また、同僚や知人の名前も出てこなかったりして「あの人」と言ったり、本人を目の前にしても名前で呼べないことがあります。
運動障害
視空間認知能力が低下することで、空間がどんな状態になっているかイメージして判断することができなくなります。そのため、外出すると道に迷ったり、車を駐車することが難しくなったり、車線をはみ出して走行してしまうことがあります。
社会的認知障害
人とコミュニケーションを取ることが困難になり、相手の感情を汲み取れなかったり、笑顔が無くなったり、気持ちが落ち着かなくなります。
軽度認知障害(MCI)になる原因
原因の多くは生活習慣病!?
最近の研究では軽度認知障害の原因の多くは生活習慣病であることがわかってきました。生活習慣病は自覚症状が無く静かに進行していくことからサイレントキラーとも呼ばれています。
生活習慣病の代表的なものは「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」などがあります。具体的には以下のことが原因で発症します。
不適切な食生活
コンビニ弁当やカップ麺、外食などは塩分や添加物が多く、肉中心で野菜不足になるため、バランスが偏りがちになります。また、満腹まで食べたり早食いなどは肥満の原因になりますのでやめましょう。
運動不足
ほとんど歩かなかったり家にいても座っていることが多いなど運動をまったくしていないとお腹周りに内臓脂肪が付いて脂質異常症になります。運動不足は動脈硬化になりさまざまな生活習慣病を引き起こしてしまいます。
ストレス
ストレスはほとんど人間関係によって溜まります。仕事や家での人間関係によってストレスが溜まるとイライラから自律神経失調症になったり、緊張状態が続くことで高血圧や高脂血症などの原因になります。
イギリスの研究によると、うつ病が重い人ほど軽度認知障害の発症率が高く、認知症の危険も高まると報告されています。
睡眠
ストレスなどによって睡眠不足が続くと食欲増進ホルモンが増え肥満になったり、血圧が上昇することで高血圧、心筋梗塞、狭心症などにもなります。慢性的な睡眠不足の人は睡眠をとっている人に比べて心疾患になる確率が倍増します。
逆に短時間の昼寝をする人はアルツハイマー型認知症の発症率が1/5も低いと言われています。
飲酒
アルコールを多量に摂取すると肝臓に負担がかかり脂肪肝やアルコール性肝炎、さらに肝硬変や脳が委縮することで前頭葉に障害が起きアルコール性認知症などになります。
参考 アルコール性認知症の治療法を公開!脳の委縮をストップさせる
喫煙
喫煙は百害あって1利なく、血管が収縮し血液がドロドロになることで高血圧や動脈硬化、心筋梗塞、糖尿病、脂質異常症などさまざまな生活習慣病を引き起こします。副流煙は主流煙の100倍以上の有害物質が含まれており周りの人にも悪影響があります。
放置で認知症リスクが50%以上
そしてこの生活習慣病を放っておくと認知症になるリスクが50%以上に高まるため非常に危険です。認知症は大きく分けて4つに分類されます。
いずれの認知症も脳の神経細胞や血管などに障害が起きたり、異常物質が溜まることによって、認知症が発症しますがどれも原因はわかっていません。
認知症にならないための予防対策
軽度認知障害は生活習慣病が原因であることから食事療法や運動療法によって改善することができることがわかってきました。
軽度認知障害と診断されても嘆くのではなく、「改善することができるラストチャンス」であるため、できることは全てチャレンジして治す意気込みで頑張って改善していきましょう。
社会との交流をする
趣味もなく誰とも話をせずに1人で家にいると、認知症の発症率が高まると言われています。地域の人とコミュニケーションを図り、社会と交流することで脳細胞が刺激され、軽度認知障害の進行を予防することができます。
また、フィンランドの研究では、何でも話せる人が傍にいたり、「誰かの役に立っている」といった意識を持つことで認知症の発症率を抑えることができ、「信頼できる人なんていない」「損得でしか動かない」こういった考えの人はそうでない人に比べて認知症になる確率が3倍もあることがわかっています。
有酸素運動を行う
2007年のアメリカの研究によると、ウォーキングなどの適度な有酸素運動を週3回以上行った65歳以上の人は運動をしなかった人に比べてアルツハイマー型認知症の発症率が低かったことがわかりました。
さらに運動を楽しんで行うことで認知症予防だけではなく、心身面でも健やかに過ごせるためストレス予防などさまざまな効果が期待できます。
参考 運動療法は認知症の予防に効く!効果のある体操や運動とは?
脳トレを行う
脳のトレーニング(脳トレ)を行うことで脳が活性化され処理能力が向上し、認知機能の記憶力がアップすることがわかってきました。カナダの研究では、脳トレを行ったことで認知症の発症リスクが50%以下になった報告があります。
私たちがいつでもできる脳トレは「歩きながら計算をすること」5歩進むごとに100から3を引いた数字を計算していくことで「歩く=運動」と「計算=脳を使うこと」で脳によりいい刺激が加わり認知症予防に繋がります。
バランスのとれた食事をとる
アメリカの研究によると、緑黄色野菜に含まれるビタミンAやビタミンE、青魚に含まれるDHAやEPA、ワインや穀物、オリーブオイルなどがアルツハイマー型認知症の発症率を低下させることが報告されています。
日常の生活を改善したり食生活を見直すことで、軽度認知障害(MCI)の原因である生活習慣病の予防へ繋がり、軽度認知障害(MCI)の予防にも繋がります。
参考 認知症などに予防改善の効果・効能がある食べ物|脳を活性化させる栄養成分一覧
サプリメントによる対策
わかってはいるものの、忙しかったりするとなかなかバランスのとれた食事を摂ることは難しかったりします。そこで最近注目を集めているのがサプリメントでの栄養摂取です。
プラズマローゲンやイチョウ葉エキスなどのサプリメントでしか摂取ができない栄養成分を摂ることで認知症対策に期待ができます。
参考 認知症の予防改善にアロマオイル驚きの効果?|たけしの昼夜配合とは
軽度認知障害(MCI)の診断
自宅でできる認知症簡易検査
自宅で簡単に軽度認知障害(MCI)を早期に発見することができる2つの認知症簡易検査があります。
この2つの認知症簡易検査には心理テストの要素も含まれており、認知症の直接的な原因である「中核症状」が分かります。点数によって「軽度認知障害」や「認知症の疑い」を判定することができます。
病院でのスクリーニング検査
病院や医療機関にて軽度認知障害(MCI)のリスクをチェックすることができる血液検査は2つあります。
- MCIスクリーニング検査
- APOE遺伝子検査
この2つの検査は採血をするだけで軽度認知障害(MCI)かどうかを判定することができるため、気になる方は受けてみてはいかがでしょうか。MCIスクリーニング検査ができる治療病院や医療機関、料金については以下を参照してください。
病院での画像診断
病院や医療機関にてMRI検査やSPECT・PET検査にて脳の状態を調べることにより軽度認知障害(MCI)を解析することができます。MCI検査では、海馬の嗅内皮質および内側頭葉の萎縮が検出されるとアルツハイマー型認知症の疑いが強くなります。
軽度認知障害(MCI)の治療法
現在、軽度認知障害(MCI)になるとアルツハイマー型認知症の移行を抑制させる治療法はありません。しかし、完全に回復したり治ったりはしませんが、移行を抑制できる薬が今後販売される予定ですのでご紹介します。
シロスタゾール(薬物療法)
国立循環器病研究センターでは、抗血小板薬であるシロスタゾールが軽度認知障害(MCI)の進行抑止効果があると報告されています。
シロスタゾールは、血管を拡張して脳の血流を良くする効果があり、慢性動脈閉そく症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感などの虚血性諸症状の改善、脳梗塞発症後の再発抑制薬として承認販売されています。
今後、全国13施設にて2年がかりでシロスタゾールの治験を行う予定です。この治験で有効性が明らかになれば保険診療として利用することができるようになります。
シロスタゾールは、副作用の発症が少なく25年以上の実績があるなど軽度認知障害(MCI)治療に非常に期待されている薬です。
アリセプト(薬物治療)
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の治療薬として有名なアリセプト(ドネペジル塩酸塩)は2005年の治験によって軽度認知障害(MCI)への有効性が確認されました。
しかし、投与後1年間のみ進行を抑制することができるなど軽度認知障害(MCI)の抑制効果としては効果が薄くあまり期待はできなさそうです。
ただ、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症への効果は期待できますので、詳しく知りたい方は以下をご覧ください。
参考 アリセプト、メマリー、リバスタッチ、レミニールの効果や副作用を比較!
軽度認知障害(MCI)と診断されても運転できる?
軽度認知障害と診断されても運転に問題がないと医師が判断すれば自動車を運転することは可能です。ただし、定期的に検査や診断を行い、認知症と診断されると免許の停止や取消しになります。
70歳以上であれば高齢者講習、75歳以上で認知機能検査が義務化されており、検査内容によっては医師の診断が必要になり免許の停止や取消しになります。
参考 2017年3月 道路交通法が改正|高齢者認知症のポイントを解説
また、免許の自主返納をすることで各都道府県の返納特典(公共交通機関などの割引など)が順次増えてきています。移動に不便がなければ免許の返納をして特典を活用するのも1つの手ではあります。
参考 高齢者の運転免許の自主返納手続き方法をわかりやすく解説
おわりに
軽度認知障害(MCI)は認知症ではなくまだ間に合う段階ですので早期発見や早期治療が非常に重要です。診断された場合は、改善できるように上記の対策を行い認知症予防を行いましょう。